「ポイントは本番行為」風俗嬢と法律の関係を知っておこう
かつて、性を売りにする産業には定まった形態はありませんでした。
しかし、時代と共に性風俗は細分化し、さまざまな種類のお店が誕生しました。
その背景には様々な法的整備などもありました。
本稿では、性風俗産業と法律の関係を知っておきましょう。
同じくカラダを売るにしても、「これをやったら違法」というようなものを知っておけば、今後の働き方の参考になるかもしれません。
売春防止法が現在の風俗を作った
性風俗産業の細分化の背景には、三つの転機がありました。
一つ目は1957年に施行された「売春防止法」、二つ目は1985年に施行された「風俗営業等取締法」、三つ目は風俗営業等取締法が大幅に改正されて作られた「風俗営業適正化法」です。
風俗営業適正化法は風俗営業の規制と業務の適正化などに関する法律であり、これを略した「風営法」という名前は、皆さんも聞いたことがあるかも知れません。
風俗営業等取締法が改正されたのは1999年のことであり、これによって風俗店の深夜の営業は禁止され、デリヘルが事実上合法化されたのもこの法律によります。
売春防止法は、売春を反社会的な行為として禁止した法律です。
つまり、売春を「人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗を乱すもの」としたのです。
このほか、売春防止法では売春の定義も明記されており、売春防止法の第二条には、
「『売春』とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう」
と書かれています。
もっとも、売春防止法で書かれている性交とは、あくまでも男性器を女性器に挿入する行為を指しているのであり、いわゆる本番行為のことです。
本番行為は反社会的としたものの、それ以外の類似行為は合法とみなされています。
本番行為のみを撲滅すべきであり、本番を売りにする女性は違法な存在の売春婦というわけです。
もっとも、本番行為を避ける女性とそうでない女性を比較しても、性行為という大きなくくりでいえばどちらも類似性が高く、一般の私たちからすればどちらも売春には違いないのですが、本番行為で売春であるか売春ではないかが分類されたのは、風俗業を知る上で大切なことです。
「援助交際」「ワリキリ」といった個人売春の多くは挿入行為を伴うため売春防止法に抵触し、本番行為を行わないことを前提とした風俗店は売春防止法に抵触しないということです。
売春防止法施行から現在に至るまで、さまざまな本番行為をしない性的サービスが開発され、それが性風俗産業の細分化に繋がっていきました。
風俗嬢と売春婦を分けるにしても、本番行為を伴う個人売春を行う者を売春婦、それ以外の管理売春を行う者は風俗嬢というわけです。
したがって、デリヘル、ファッションヘルス、イメクラ、ピンサロ、SMクラブ、性感マッサージなどの本番を提供しない風俗店に勤めている風俗嬢は売春をしていないと位置づけることができるのです。
逆に、本番行為を前提としたちょんの間、本番サロン、デートクラブなどで働く女性は、売春防止法に抵触する業務に従事する女性であり、売春をしていると考えることができます。
ここで疑問となるのが、ソープランドやAVはどうなのかということです。
ソープランドは不特定多数の客と本番行為をすることが前提となっていますし、AVでも不特定多数のAV男優たちと本番行為をすることが前提となっています。
しかし、これは非常にきわどいグレーゾーンで営業されている業態です。
すなわち、ソープランドには店舗と女性の間に雇用関係がないということが徹底されており、お店はあくまでも女性に対して部屋を貸しているだけという建前なのです。
AVも本番行為を明らかに行っていますが、AVは販売前に警察関係者が関わっている映像倫理機構の審査を経て、非合法ではないこと、つまりモザイクの向こうでは本番行為をしていない(あくまでも疑似本番である)という建前で成り立っています。
今や薄いモザイクが一般的であり、誰が見ても男性器が女性器に挿入されていることは明らかなのですが、この建前によって売春はしていないということになっているのです。
実態はどうだということを言い始めればきりがないので、それは一旦置いておいて、売春防止法はデリヘル、ファッションヘルス、イメクラ、性感マッサージといった非本番系の風俗店の合法化の理由となりました。
そして、本番行為をする風俗店は違法となりました。
風俗嬢として働こうと思う女性はこの事実を知り、サービスに本番行為が含まれているかどうかによって、自分は法律的に見て風俗嬢なのか、売春婦なのかを知ることができます。
常態化する本番行為
もっとも、これは法律で禁止されているあらゆることに対してもそうなのですが、禁止されていることには付加価値がつきやすいものです。
例えば、賭博や薬物がそうですし、個人売春にしても本番を前提とする中でコンドームの有無などで大きく価格が変動します。
それだけに、本番なしを前提としている風俗店でも、本番行為の有無はお店や風俗嬢個人の商品価値を高める一つの手段となり、非本番系の風俗においても本番を行うということが常態化しています。
例えば、風俗嬢が有償で本番行為を行なったり、お店が集客のために本番行為をオプションにしたりといった形で行われているのです。
非本番系風俗店で風俗嬢が個人的に本番行為を行う場合にはお店は認知していないため、この本番行為によって支払われるお金は、お店の帳簿には記載されない地下マネーと言えるでしょう。
このような本番行為は売春防止法から見れば明らかな違法行為ですが、だからといってすぐに逮捕される類のものではなく、多くの風俗嬢は法律に抵触しているという意識を持たずに本番行為を行なってお金を受け取ったり、リピーターを作るためのサービスとして本番行為を行なっています。
当然ながら、本番行為を行う風俗嬢たちに、「人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗を乱す」行為をしている自覚は全くありません。
そもそも、風俗嬢にも色々であり、働き方やスタンスは個人によって大きく異なります。
本番行為を提供している違法店で働いている風俗嬢もいれば、合法店で個人的に本番行為を売っている風俗嬢もいれば、合法店でリピーター獲得のために本番行為を無償で行なっている風俗嬢もいれば、本番行為は絶対にしないと決めて働いている風俗嬢もいます。
そうであるからこそ、性を売りにしている女性の中で風俗嬢と売春婦の境界はかなりあいまいになっており、一般的には管理売春をしている女性を風俗嬢、個人売春をしている女性を売春婦として考えているきらいがあります。
風俗嬢の意識の変化
他の記事でも述べていることですが、近年では風俗嬢になりたがる女性が非常に多くなり、風俗店には応募が殺到し、風俗嬢になりたくてもなれない女性が多数生まれています。
それによって、風俗嬢の意識も明らかに変化しています。
つまり、風俗嬢をやることがポジティブに捉えられるようになってきており、現在風俗嬢をしている女性において人としての尊厳を害しながら働いていると思っている人はほとんどいないことでしょう。
今や、だれでも風俗嬢になれる時代はすでに終わり、スタート地点に立つだけでも厳しい競争があるため、貧困に陥った女性が生活の糧を得るために、セーフティネットとして不本意ながら働くという機能は完全に失われています。
風俗嬢と売春婦の境界は曖昧ですが、スタート地点に立ち、その後に客を獲得していくために競争が生まれていくことによって、性風俗店で勤務する女性を「可哀想な女性」と同情したり、「淫売」とののしったりすることは、時代遅れだと言えるでしょう。
日本の風俗嬢は合法と非合法とを問わず、選ばれた一部の女性しかつけない職業になりつつあります。
その背景には、法律とそれによる風俗店の多様化、その多様化の中で生まれた本番行為のありかたなどの影響も皆無ではないのです。